一方でアンティークも捨てがたかった。古いものが好きなのだ。中学の時だったか、骨董屋で振り子の柱時計を買って部屋に置いていた。ゼンマイを巻くキリキリという音、コッチ、コッチという振り子、ボ〜ン、ボ〜ンという時報。眠れない夜などにそれらの音がわずらわしいと思う時もあったが、長く使った。
ずいぶんと考えたが、結局、アンティークに決めた。使っていて壊れてしまったり、使わなくなっても、置いておくだけで、部屋はいい雰囲気になるだろう。そして、もし、誰にも必要が無くなったときには、誰かにあげても喜んでもらえるだろうし、売るという選択肢もある。
選んだのは、Royal Portableという、1930年代に製造されたタイプライターだ。インクリボンが乾いて印字が薄いが、動作にはほぼ問題がないと書いてある。ただし、古い物なので実用よりは鑑賞用として考えてほしい。とも・・。
「概ね問題ございません」という、「概ね」に、一抹の不安を覚えたが、少々の不具合があっても、直せないことはないだろうと思った。
アンティークと決めて、もうひとつ、気になっているタイプライターがあった。Royal No.10というもので、これの製造は1910年代というから、もう百年近く前のものだが、完動するという。どちらにしようかとかなり悩んだ。

Royal No.10は、写真の通り、レジスターを思わせるような形で、いかにも古き良きアメリカといった堂々たる風情と、ごつごつとした「機械感」がいい。ShiftやBackSpaceキーのキートップがなんとも言えないアメリカ的な緑色で、そこも気に入ったのだが、いかんせん、一家庭に置くには大きく、重い感じがする。デスクトップパソコンと同じで、これを一旦置いたら、そうそう場所を動かすということもできないだろう。
一方、Royal Portableのほうは、姿形も可愛らしく、ノートパソコンのように、手軽に持ち運びができるコンパクトさや、「アヴァンギャルドな模様のレッドカラー」も気に入った。
他に入札はなかったので、終了日まで待って、最初の提示価格、19,800円で入札を行った。希望落札価格として24,000円が提示されていたが、まず誰も入札しないだろうと踏んだ。
オークションの終了はたぶん夜の10時くらいだったと思うが、翌日までそのまま放っておいた。落札できていればよし、できていなければあきらめて、Royal No.10を・・・と思っていた。
朝、メールを開くと落札の通知が入っていた。入金手続きをして、その旨を出品者にメールすると、10分ほど後に発送の通知が届いた。
すばらしいスピードだ。これで明日届く。休日なのでいろいろといじってみよう。
(続く)