(承前) 浅草の「里美」は、どうにもアヤシイ店だった。アヤシイというのは、怪しいではなく、妖しいと書く。
こういう店を見ると、私は無性にうれしくなる。
もう30年以上も前になるか、家から自転車で10分くらいのところに、「MON モン」というディスカウントショップがあった。
この店の駐車場には、グライダーが置いてあった。模型ではない本物だ。そう大きなものでもないが、両翼で10mほどもあっただろうか。それもディスプレイとして置かれていたのではなく、商品として展示されていたのだった。
百万円に近い数十万円代の値がつけられていたと思うが、私の知る限り10年以上雨ざらし、とんでもなく汚いシロモノで、こんなものを買う奴は絶対にいないだろうとずっと思っていたが、同時に、そういうものを展示しているということに、なんだか妙に妖しい魅力を感じていた。
店の中にも、最新家電製品があると思えば、ガラクタとしか言いようのないものが多数あり、中でも漆が剥げてなければ高級品だったろうと思える戸棚や、弦の錆び付いた大正琴が並んでいるエリアなどは、特に妖しかった。
何が置いてあるのか予測できない、何故こんなものが置いてあるのかわからない。そういう妖しさは、今思えば、民族博物館とか、保存された古民家を訪ねたのと同じような感覚なのかもしれない。
などというような感傷にひたっている場合ではなかった。もう、今日はダンボールカーテンはごめんだ。フロイスも買って、お、自転車もあるな。こういう折りたたみ自転車も買って(ドキドキ)、ん? なぜどきどきする? とにかく今日は落ち着いてゆっくりと過ごせる環境に一歩でも近づけなければいけない。
絶対に今日そろえなければいけないのは、ドライバーとモンキーレンチ、カーテンとフロのイスだ。
間違いなくこの店に工具はある。私は確信を持って店の中に入っていった。
(続く)