2008年7月9日水曜日

四万六千日のむぎとろ

今日は7月9日。前に東京に来たのは、いつだったろうか。夜、神田西口商店街で焼き鳥を食べていると、不動産屋からメールが来た。

『浅草むぎとろという物件が出てきたのですが、明日見に行かれますか?』

浅草むぎとろという物件・・・物件? 物件っちゅうとマンションっていうことやんな。
まぁなんだかおもしろそうなので、とりあえず見るだけは見てみようと「行きます」とメールを返した。

今日はドーミーイン浅草というホテルに泊まる。このホテルの横に、第一候補にしていたワンルームマンションがあり、道路横だけど夜うるさくないかとかをこのホテルで試してみるつもりだった。

ホテルのベランダから隅田川を眺めることができる。川の近くだからだろう、涼しいとまではいかないが、風が通って気持ちがいい。外の音も聞きたかったので、窓を開けて寝た。

朝、6時前だったろうか、東武線の電車が川を渡って駅に回り込んでくる時のレールの軋み音で目が覚めた。結構大きな音だ。う~ん、毎朝この音を聞いて目覚めるというのはよくないなぁ。

10時。ホテルのフロントで、愛と、愛の小学校の同級生の不動産屋さんと待ち合わせ。当日は、同級生ではなく、その子分が案内してくれることになっていた。3人でまず隣のマンションへ。新築できれいだが、なんだか部屋が暗く、またどうにも狭い感じがする。玄関が川側で、部屋から川が見えないのも少し不満だった。

今日、見てまわろうと思っていたのは、むぎとろを合わせて3軒。うち1軒は部屋のタイプが3種類あり、まぁこれで気に入らなければまたの機会でもいいのかなと思っていた。

むぎとろのほうが近いというので、2軒目はそっちにした。ほんとだ。「浅草むぎとろ」という店があり、その上がマンションになっているようだ。

「あれっ? 鍵が合わないですねぇ・・。」と子分君が言う。「おかしいなぁ」などと言っていたが、どうやら「むぎとろ」はもう一軒あるらしいことがわかった。

ようやく部屋に入ることができた。川側の壁がほとんど全面窓になっていて、部屋の中が非常に明るい。窓の外には川遊びの座敷船が泊められている。対岸に高速道路が通っており、車の流れ、川の流れ、船の行き交いが部屋の中から眺められるのがいい。洗面、トイレ、風呂が入口付近でなく、メインの部屋から入るようになっているのはありえないと思ったが、なんといってもこの窓からの眺めは捨てがたい。

愛も「いい部屋だと思う」と言ったので、ほぼ気持ちは固まった。「ここに決めよう。」と子分君に言うと、驚いた顔をしていた。「いいんですか? 何日かかけて何軒も回って、それでも決まらなければウィークリーマンションなどで一か月なり住んでその間に探す方法もあります。」などと言っているいるが、そんなことをしてたらかえって迷ってしまうし、最高にいい部屋を見つけたとしても隣の部屋に、夜中にバカ騒ぎする奴がいたり、上の階ではゴキブリを養殖しているような輩がいるかもしれないので、そう悩んでも仕方がないだろうと思った。

次のマンションを見に行ったが、もう部屋が暗いということだけで、気に入らなかった。少し広めの部屋も見たが、どうも一つ一つがせせこましい。愛が、体を斜めにしてドアをすり抜けないとたどりつけない対面キッチンに立って、「同棲サイズの部屋だね。」というのをドキッとしながら聞いていたが、まぁ、・・・そんな感じの部屋だった。

そのマンションを出て、子分君に、
「やっぱりむぎとろで決めだ。手続きしましょうか。」と言った。ふと横を見ると、歩道の柵に「四万六千日 浅草ほうずき市」の手書き風ポスターがあった。

そうか。7月10日は「四万六千日」。今日観音様にお参りすれば、四万六千日分のご利益があるという日だ。
「四万六千日、お暑いさかりでございます。・・・」で始まる落語「元犬」のさわりが思わず口をついて出た。
浅草近くの長屋の片隅で生まれた体の真っ白なシロという犬が、(真っ白な犬は来世は人間に生まれ変わるという迷信?がある)観音様に願をかけ、願いかなって人間になり、いろいろな騒動を起こす、という噺だ。

そうか。四万六千日。観音様のお導きでむぎとろに出逢ったか。へへ。いい話だねこりゃ。

(続く)
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